__東京都内



とある土手。


夜中の2時を過ぎている事もあって、辺りは静まり返っている。


時折吹く風は、優しく髪を撫でるが、冬の終わりだとは思えないほどの冷たさだ。


「…あー、さびーな」


そう呟いてズボンのポケットから煙草の箱を取り出す青年の足下には、力無く倒れている3、4人の男たちが積み重ねられていた。


顔には殴られて痛々しい痣や傷。

土手に流れる水の音に混じって、苦しそうな呻き声が微かに聞こえる。


「…ったく、偉そーな態度のわりに、クソよえーじゃねぇか」


煙草を一本取り出し口にくわえると、足下に積み上げられた男たちの上へドカッと腰を下ろした。

その瞬間一層苦しげに呻いた男たちを冷たく見下ろすとジッポで煙草に火を付ける。


吐き出した煙が夜空へと舞い上がって行くのをボーッと眺めている青年は、下で呻いている男たちとは対照的に顔には傷一つ付いておらず、真っ白なロングコートの袖口を返り血が赤く染め上げていた。