階段から盛大に転げ落ちて泣いたとき。

遠足でお母さんに会いたくて、寂しくて泣いたとき。

運動会でお弁当のたまごやきを落として泣いたとき。

いつだって、傍にいてくれたのは、ひとつ下の男の子。

「なかないで。俺がいるから」

ぽんぽん、と優しく頭を撫でられる。

さくら組の彼は、もも組の私よりしっかりしていて…

「………あ、りが…と、う……」

「うん」

やっとのことで、小さく小さく伝えたお礼でも絶対に聞き逃さず返事をしてくれて…

私はいつも、自分より少し冷たいその手を離さなかった。 

きっと、その場所が心地よくて…

離れたくなくて…

「春ちゃん、卒園おめでとう。---と仲良くしてくれて、ありがとうね」

彼のお母さんがそう言って私の頭を撫でてくれたとき、駄々をこねたっけ。

だけど、そんなときでも彼は優しくて……

泣きそうな顔で、

「ずっと、ずっとそばにいてあげる。だからなかないで」

わたしの手をぎゅっと握った。

…それなら、新しい学校でも、大丈夫だ…

こくり、と俯きながら頷いた、あの日。