「お姉さん何歳?名前は?」
なぜそんな事を聞かれないといけないのか。
そう思ったけど、言っても言わなくても変わりない。
「21、佐藤梓」
「へぇ、分かった、覚えた!
俺は中下大地、18歳!覚えたかったら覚えていいよ?」
なんでそんな上から目線なの。

「大地くん、高校生?」
「そうだよ?」
やっぱりね。
全てが子供、見た目も頭も。

「勉強しないの?受験生でしょ」
ちらっと彼の方を見て言う。
「俺進学しないから。就職すんの」
「そうなんだ」
「梓さんは?大学行ってんの?」
「そうね…」
行くつもりではいた。
だから私は県内でも有名な進学校に通って毎日毎日勉強してた。
でも
「行ってないわ」
「じゃあ就職したの?俺と一緒じゃん」
なんだとでも言うように笑いながらそう言った。

「まぁ、そういうことにしてて。
じゃあ、私行くから。じゃあね、大地くん」
私はそう言い、左手で帽子を押さえながら立ち上がった。
「あっ、待ってよ」
その声と同時に右手首を掴まれる。
「何?」
振り返りそう言うと彼は立ち上がった。

「連絡先、教えてよ」
右手に持ったスマートフォンを私の目の前で振る。
「どうして?」
「まだ話したいことあるんだよ、俺、お姉さんのこと気になるんだよね」
何が言いたいの?
こんな子供にキザなセリフ言われたって、何とも思わないし、何も感じない。
「私の事好きなの?困るわ、私、結婚して子供もいるの。ごめんね?」
くびを横に傾げながらそう言った。
これで解放されるだろう。
そう思い、掴まれたままだった手首から彼の手を離そうとした。

「面白いじゃん、とりあえず、教えてよ」
彼は笑って手首をより一層強く掴んだ。
もう仕方ない。
とりあえず教えて、帰してもらおう。
私は持っていた小さなバッグからスマートフォンを取り出し、電話番号だけ教えた。

「じゃあ、教えたから」
そう言うと彼は少しつまらなそうな表情を浮かばせながらやっと手首を離した。
「電話、かけてこないでね」
私はそう言い残して歩き出した。
後ろから「えー」という声が聞こえたのは無視したままで。