「では行ってまいる」

一家の長であるばかりではなく、藩の情報探索方を束ねる長として例え家族との今生の別れになるやも知れぬ危険な任務とはいえ取り乱して醜態を晒す事無く毅然とした態度で家族に留守を託す十兵衛…

しかし吉十郎は狭霧の着物の袖を掴み

「お姉ちゃんって字が書けぬのじゃろ?報告書などと言っておるが本当は何て書いたのじゃ?」

と憎々しげに聞いて来る。

聞かれた狭霧は鼻で笑って

「昨日屋敷に来る途中で食った白玉あんみつの代金…経費で落とせるか聞いてみたんよ〜」

狭霧のセリフを聞いた十兵衛の家族一同は、十兵衛との今生の別れを覚悟する必要に迫られたように一斉に泣き出した。