「なに、気にして欲しかった?」


拓真がいたずらっぽく笑う

「違います~」


ただ、なんとなく

いや...なんでもないや。


「じゃあここでな」

「あっうん、またね」


あたしの教室の前まで来て

たくまが全く強くない力でポンと頭を叩いて


自分の教室に入って行った



ガラガラ


教室にはまだ人はいなくて...


けどあたしの窓側の席には...あれ?


近づいてよく見てみれば


あたしの席で腕に顔を伏せている人...


柔らかそうなぴょんとハネた黒髪...




ガタン



思わず机に当たって


あたしと彼の2人しかいない静かな教室に

響いた音で ムクッと彼は上半身の起こして



ゆっくりと傍に立つあたしを見上げた


「あ、ごめん」


そしてそのタレ目でくりっとした目に

あたしをしっかり映してから

彼はかすれ気味の声でそう言って


立ち上がると


あたしの横を通り過ぎて

本来の彼の席に座った



彼はまた顔を伏せたかと思えば


体を起こして


立ち尽くすあたしの顔を覗き込む


「座んねぇの?」


えっと...


全開の窓から吹き込む風が


ひらっとあたしのスカートを揺らした


「すわり...ます」


あたしがぎこちなく座ったのを確認すると



彼はまた顔を伏せて寝始めた




....なんで


なんでこれだけなのにドキドキしてるの


あたしに向けられたその低い声が


頭の中で何回もリピートしてて


握りこぶしがじーんと熱くなった



不思議...


これだけなのに


なんで...



彼を横目でちらっとみると


また思い出して


胸の高鳴りがさらに高まった