僕らはきらわれもん

平日の午後1時。僕は玄関で靴を履きながらドアの扉を開け、鍵を掛ける。
お気に入りの帽子を深くかぶりなおして、なるべく人に顔を見られないようにしたから、早足でいつもの道を通り、信号の前で止まる。
大丈夫。誰も僕を見ていない。クラスメイト達ももう学校にいるし、大丈夫…

「大丈夫…大丈夫…」

僕は自分に暗示をかけた。いつもの事だ。

そう。いつもの事。

僕がこんな臆病になってしまったのは、一年前からだ。容姿が女みたいだといじられて、最初はその程度だったのだが、次第に事態は悪化していき、いじめへと変わっていった。

何も抵抗しなければ、すぐに終わると思っていた僕は、ただただ耐え続けた。しかし、その[何も抵抗しない]という事が失敗だった。

2ヶ月もすると、流石にもう精神がおかしくなってきて、今はもう、学校には行っていない。

こんな僕は、おかしいだろうか。

変わっているだろうか。

「…」

信号が青になった瞬間、また早足で歩く。
人に会いたくない。人を見たくない。

…自分のこんな顔、見られたくない。

僕はたまに、人けのない場所に行きたがる。家にいたらいたで、被害妄想が止まらないのだ。だから、ひたすら歩く。

無我夢中で歩いて20分。ようやく人がいない所に到着した。公園だ。
ブランコにシーソー、滑り台は勿論。鉄棒や砂場まである。だが、どれもボロボロで、綺麗と言えば砂場ぐらいだ。とても遊べるような場所ではない。でも、どこかこの公園には落ち着ける何かを感じた。

「…このブランコ、座っても大丈夫なのかな…」

恐る恐る座ってみると、ギシッという音がして驚いたが、見た目よりも頑丈のようで、意外とすんなり僕を座らせてくれた。

「…それにしても、こんな所に公園なんてあったんだなぁ…」

「…あぁ、そこは俺の特等席だ」

「あ、そうなの?確かに乗り心地は最高だよねってうわああああああああああああ!?」

ガンッ!!



なんなんだ、こいつは。
丁度コンビニで昼ご飯を買いに行っていた俺は、突然現れたこいつに酷く動揺した。

「…てめぇどこのどいつだ」

「えっあっいや…僕は…」

ブランコから落ちてまだ転がっている部外者に尋ねる。物凄い表情で睨みつけながら。

「…」

「…おい聞いてんのかてめぇ」

「…」(ビクッ)
何も言わずに真っ青な顔をしているそいつは、突然掠れた声をだし始めた。何を言っているのかさっぱりわからない。あぁ。なんなんだよこいつは。

俺は人間が嫌いだ。だから、誰とも話をしたくない。見るのも嫌だ。

「…おい、どうやってここに来れたのかは知らねぇがな、俺は人が大嫌いなんだよ。とっととうせ…?」

うせろ、そう言おうとしたが、やめた。
[ここ]に来れたということは、…こいつ。

「…ゼェ…ゼェ…ク…ル…し…」

「!?おい!?大丈夫かお前…!!」

呼吸の仕方がおかしい。…この症状。過呼吸だ。

急いで体を起こし、座らせ、コンビニで買ったパンをぶちまけて、すぐに袋を被せた。

「…落ち着け、大丈夫だ。深呼吸しろ」

俺が言った通り、そいつは深呼吸をし始めた。思いのほか早く症状が治まってきているのは、もう何度もこういうことになったことがあるという証拠だ。

「…ハァ…あ、の、ありがとう…僕……凄い人恐怖症で…」

被っていた袋を取りながら、そいつはとても悲しそうな、寂しそうな顔で言った。

「…やっぱそうか」

「?」

俺の言っている事が理解できないようで、まだ青白い顔を少し横に傾ける。

「…この公園に来れた奴はな、皆少しおかしな奴ばっかりなんだ。…お前、学校とかでいじめられてんだろ?」

「…今はもう学校には行ってないけど…うん…」

この公園は、実在しているのかどうかはわからない。だが、ここに来る奴は、何故か皆心に深い傷をおっているのだ。

だから、俺達はこの公園のことをこう呼んでいる。

[ハートパーク] 傷ついた公園。と。

これは、そんな嫌われもん達が集まった。恋と友情と、成長の物語。