「準備はできたか」


恭介くんもあたしに気づいて、少しだけ早足でこちらまでやって来た。


「はい」


「では行こう。あまり待たせると、直紀がうるさい」


ほんの少し顔をしかめてそう言うと、恭介くんは歩き出した。


あたしもそのあとを追いかける。


「自分の部屋と、さっき食事をした大広間と、それから門の位置だけは最低限覚えておいた方がいい。……まあ、すでに他の誰かから聞いているとは思うが……」


「いえ。ありがとうございます」


光くんの面倒(面倒っていったら失礼かな。でもとても同年代には見えないんだよね)も見ていたし、恭介くんは面倒見がいいんだな。


「それから、屯所近辺の地形だな。いざというとき、役に立つ。稽古と同時にあちこち見回りをする仕事もあるし、休みの時にも歩いて回るといい。不安ならば、俺を呼んでくれても……」


「あんれ、恭介、随分積極的じゃない」


恭介くんが喋っている最中に、廊下の影からにやにや笑いながら直紀さんが歩いてきた。


「なっ……直紀!?玄関で待っているのではなかったのか……!?」


「二人が遅いから見に来てあげたんだよ。でも……邪魔だったかなあ?」


「な、なな何の話だ」