母が事故にあったと聞いて、慌てて実家へ戻る途中に偶然深瀬と遭遇した。焦って冷静さを無くしたあたしに付き添って、病院まで連れてきてくれて。

幸いにも母はとても元気で、駆けつけたときは、呑気にお見舞いの品を吟味している最中だった。事故にあったといっても脚を骨折した程度で、他に異常はないらしい。


隣の深瀬に目をやって、紹介しなさいよとでも言いたげな母のにやにやした顔つきに「高校時代の同級生よ」とだけ言ってやった。母の期待するような、そんな関係じゃない。


「病室まで来ちゃってすいません。お元気そうで良かったです」

「お母さんが事故ったって聞いて、テンパっちゃって。駅前で突っ立ってたところに偶然会ってね、連れてきてくれたのよ」


納得したように「ありがとうねえ」と、母が深瀬に微笑む。深瀬は首を横に振って、笑みを返した。

落ち着いて、改めて大人になった深瀬を見ると何だか不思議だ。最後に見たのは、地元を離れるあたしを見送りに来てくれたとき。まだ高校を卒業したばかりの頃だ。

たまに帰って来ていても、会わないように細心の注意を払っていたし、深瀬も何年か前から一人暮しを始めたとは聞いていたので、今日まで会わずに7年の月日が流れていた。

あの頃とは違う深瀬がここにいる。もう会うことはないと思っていた、大人になった深瀬が。

胸の奥がざわつくのを隠すように深瀬から目をそらして、母の方に向き直った。