歌姫の声は黄金の鐘の音。
その歌声は一国の加護と一人の王の為に捧げられ
終わることのない平和の象徴。
一子相伝の歌姫の声は
母から娘に受け継がれ、絶えることなき祈りを天に捧げ続ける。すべては王とそこに住む民の平和の為に。
「歌姫には対になる言葉が存在しないのよ」
男と女。太陽と月。闇と光。この世の中は全て対になる物から形成されている。
でも、歌姫には対になる言葉が存在しない。
「ねえ?ユーリどうしてだと思う?」
柔らかな指先の腹が頬をそっとなぞりながら、母と呼ぶべきたった一人の家族は何処か悲しげに微笑みを浮かべていた。
その表情が幼いユーリの胸には小さな違和として妙に印象的だった。
「存在してはいけないからよ」
母がどうしてそんなに悲しげに微笑むのか、その言葉の意味が一体何をさすのか。
ユーリにはどうしてもわからなかった。
分からないまま年を重ねて、そうして気がついた時には、全てが鳥籠の中に集約されていた。それがユーリの世界だった。
