今日もまた一日の授業の終わりを告げる チャイムが鳴る。 私は誰とも話をせず、真っ直ぐ部活へ向かう。
途中ヒカル君とすれ違うがなんとか平静を装い無事通過。
わかりやすい私のことだ。おそらく顔が赤くなっているだろう。
第一関門も無事突破し、地獄の部活動へと向かう。つまらない時間がノロノロと進み、誰よりも早く帰宅。
「あれ?ミコトちゃんだよね?」
聞きなれない声が後ろから聞こえ、警戒心 あらわにゆっくりと振り向く。 「やっぱり!久しぶりだね!みことちゃ ん!」
この世にこれとないだろう極上の笑みを浮 かべそういった女子生徒に「久しぶり」と 声をかけられたが、私には全く見覚えがな い。
「ど、どちら様ですか・・・?」
震える声で尋ねる。情けない。
女子生徒はタハハッと笑いながら近づいて来る。
「忘れちゃったかな・・・?幼稚園のころ 一緒だったアカネだよ!」
アカネ・・・?
フラッシュバックするあやとりで遊んだ記 憶・・・一日に一枚しか使っちゃいけない はずの折り紙を盗んだ記憶・・・一緒にグ ラウンドを駆け回ったきお・・・
「大丈夫?」
声をかけられハッとする。
どうやら私はいつの間にか過去の記憶に入り込み、目の前のアカネの存在などすっかり忘れていたようだ。 「ご、ごめん・・・お、覚えてるよ・・・ 一緒に折り紙とか盗んだよね~」
必死に取り繕う私をよそに彼女は大輪の花 のような輝きのこもった笑みを浮かべた。
まったく、彼女の笑みのパターンは一体いくつあるのだろう。 内心恐怖すら抱き、ぎこちなく微笑み返 す。 「やっぱり覚えててくれたんだね!さすが だよ!」
この言葉は・・・お世辞だろうか?疑いのこもった目で見るが、彼女の頭の悪そうな満面の微笑みを見るとそうでもなさそうだった。
「ねぇ、よかったら一緒に帰らない?」
「い、いいよ。」
戸惑いながら返事をする。 何年ぶりだろう誰かと一緒に帰るなんて。
「それにしてもミコトちゃん変わったね! すっごい美人じゃん!?」 「あ、ありがとう・・・全然そんなことないよ・・・」
「ホントだって!可愛いよ!きっと彼氏な んかもいるんだろうな~・・・」
アカネの突然の爆弾発言に慌てて言い返す。
「い、いないよっっ!大体、友達も出来た ことないし・・・」
「えぇ!?いないのっっ!?でも絶対ミコトちゃんのコト好きな子はいるって!」
またもや突然の爆弾発言に私はうろたえ た。
「い、いるわけないじゃん!私のことを好きな子なんt・・・」 「え~・・・?でも私噂聞いたよ?1年1組の高橋ヒカル君がミコトちゃんのことが好きって噂。」
心臓がドクンとはねあがる。 ヒカル君が・・・?私のことを・・・?彼は私が好きなってことを知ってるのだろうか・・・?明らかに怪しい情報をちょっとでも信じて しまう自分が情けなかった。かと言って本人に確認する・・・? そんなことできるわけない。
「じゃぁ、あたし、家ここだから。 じゃーねー!」
アカネの言葉にハッとし、
「うん。バイバイ。」
軽く手を振った。 いつの間にか空は一面の星で覆い尽くされている。
「今日はホントにいろいろあった な・・・」
一人つぶやき、家への帰路を急いだ。