『ただいまー』
なんてことはなしに帰ってきた男におかえりより先にため息を送る。
それを知ってか知らずか、両手いっぱいにお土産を抱えて満面の笑みを向けてくる。
「他に言うことないの?」
『……元気だった?』
「それだけなの?」
『……なに期待してるの?』
「そういう奴だって知ってた」
『……怒った?』
「何に?」
『ん。勝手にいなくなって』
「ばか」
『うん』
男は困ったように笑ってそっと私を抱き寄せた。
ずるい。
文句を言うに言えないじゃない。
「いつまでいるの?」
『ん?海火ミコが望むならいつまででも』
「嘘つき」
いつも同じことを言ってはふらりといなくなる
「引っ越そうかな」
『どこに?』
「雪斗の知らないところに」
『……だめ』
「なんで?」
『海火は俺の彼女』
「普通は彼女に行き先も告げずにどっか行ったりしない」
『うん』
「やっぱり……」
『うん?』
「雪斗は絶対に謝らない」
それが悪いことだって自分で思ってないから、もちろん謝られたらその程度のことでいなくなったのって怒るけど。
また曖昧な微笑みを浮かべて、流す。
『僕は絶対に浮気はしないよ、必ず海火のところに帰ってくる』
たぶんそういうところが私を離さない所以。
「もし私が行かないでって言ったら行かないの?」
無言で俯く雪斗。
「わかってるよ、雪斗は留まれないで浮遊する人、私は留まらなきゃいられない人。相反する者同士よね」
『海火……』
「いいよ、いつでも出掛けていって………
でも、できたら、できるんだったら
“いってきます”ぐらい言って欲しいかな」
『言う。絶対。それで海火が待っててくれるなら』
「ん。雪斗好きだよ」
『僕も海火のこと好きだよ』
「……ご飯食べよっか」
『あ、でもその前に…』
頭1.5個分高い、雪斗を見上げると触れるだけの甘く優しい口づけを落とされた。
『結婚しよ、海火が大学卒業したら』
「ふふ、結婚式にはちゃんと隣にいてよね」
『当然、ハネムーンは僕のお気に入りのところ案内するよ』
「それまでここにいられるかしら」
『絶対いる』
真顔で真剣な雪斗に笑いかければ雪斗もにっこり笑い返してくれる。
嗚呼、幸せ。
(了)