8月上旬、夏休み真っ只中の
午後1時33分、2年3組にて


「暑い」

『クーラー……』

「なんで夏祭りの日に学校で、書類作成しなきゃいけないの」

『……』

続かない会話にも慣れてしまえばこのテンポが落ち着くものだ。

「ねえ これ終わったらちょっとだけ夏祭りいかない?」

『花火か……』

彩月が笑ったのが空気を伝って感じられた。

「見よ見よ花火!!」

『好きだ』

「うん私も…………」

花火好き、その言葉は飲み込まれた。
勢いよく顔をあげるとぶつかる視線。

いつから見ていたんだろう、

そう思えるほどの視線。


「彩月」

『舞羽のこと好きだよ』

そう言って目を細める、けれどもすぐに書類に視線を落とし、作業を続ける彩月。

日常会話のように告げられたこの男の告白。

それは案外するりと私の中に入ってきた。

「どういう…」

『……』

「彩月?」

『そのままの…………意味』

いつも表情を変えないことで有名なこの男がいま照れている

『……ベランダ行ってくる』

ぽかんとした私の視線から逃れるようにカーテンの影に見えなくなった。







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力が抜けたようにしゃがみこみ手の甲を口元に当てひとこと。

『……あれが精一杯だって気づけよ』

彩月の呟きは舞羽に届かないまま
蒼い青い夏の高い空に吸い込まれていった。



(了)