「西森」
俯いた私に、彼が声をかける。
顔を上げると、少しだけわらって、開いた文庫本を見つめる夏目くんがいた。
「....ありがと」
その言葉を聞いた瞬間、私はきつく目を閉じた。
....ずるいな、このひと。
不器用で、無愛想で。
見ているこっちが腹立つくらい、純粋。
もっと、正直になればいいのに。
彼氏から奪うくらい、朝木さんを揺さぶればいいのに。
....こんなにも静かな恋を、私は見たことがなかった。
*
次の金曜日も、私達は変わらず自習室で過ごした。
夏目くんははじめの頃より、少しだけ口数が増えた気がする。
彼はきっと疑問に思ったはずなのに、私が『いつから』『どうして』すきなひとがわかったのか、一度も尋ねてこなかった。
それどころか、私に対して、彼はどこか安心したような顔をする。



