少年がタナトスを歩き何時間が過ぎたのだろう。
色々な屍が無造作に散らばり
行き交う人々も 少年に目もくれず 大都市を目指し 少年と逆の方向へと足を運んでいた。

低い位置にあった太陽は 気がつけばオレンジ色へと変わりつつあり

足を止めることなく歩み続けた少年の足もようやく止まり

視界に入るのは タナトスと違い
微かに緑に恵まれた地が広る

幻想郷《レーヴ》

しかし 残念なことに この地に移住する事は出来ない。

ここで育ったもの この地に縁があるものしか
足を踏み入れることはできないのだ。

ゆえにこの《レーヴ》をしるものは居ないと言っても過言ではない。

少年は躊躇する事なく その地に足を踏み入れ
そこは
さっきまでの砂埃が嘘かのように 実に澄んでいて
少年は口に巻いていた布切れを解いた。

そして暫く歩き
目の前には 活気に満ち溢れた ような街がある

すれ違う人々は 皆生き生きとして居るように見えた
それはこの現世に似つかわしくない程に。

そして少年は1人の女性に遭う。

《やあテロス君。会うのはいつ以来だろ》

気さくに話を掛けてきた
赤い髪 赤い瞳。
それを映えさせるかのように真っ白いローブ。
背丈は165程だろうか。

女性はそう言うと 少年の肩を叩いた。

《だな。久しぶり。セレーネはまだこんな所に居たのか》

少年は呆れたかのよーに話を合わせた。

《こんなっ。て失礼だなテロスも。 見てごらんよ 皆んな笑顔で。生に満ち溢れているじゃないか。だから 私はここに居るんだよ。私が決めたんだ。》

女性は力強く その言葉には覚悟という覇気が兼ね備わっていた。
少年は軽く頷き

《そうだな。セレーネがそう決めたんなら僕は何も言わないさ。 僕には何も影響しないしね。》

そう言うと セレーネは
表情を曇らせた

街中を2人で歩いていると
色々な人がセレーネに話を掛けてくる

セレーネちゃん。今日もいい天気だねー。
これは仕事日和だ。

セレーネちゃん聞いてよ
うちの主人がねー?。

まるで 一つの輪のように 一つの大家族かのように 人々は
セレーネに話を持ち込む。
セレーネはその一言一言に 笑顔で答え
少年はその姿を見ながら 小さくため息をこぼした。

そして 言葉を紡ぐ。 《この街は眠らないんだろうな》と。

セレーネは少年に何を言ってるんだと言わんばかりに 肩を叩いた。

《今日は泊まっていくかい?ちょうど 祝杯祭が今晩行われるんだよ。》と
少年に水を勧めながら話を続けた。


少年が持っていた水とは違く

透明で透き通った 水。
飲まずにはいられない。魅力的な液体。

《ごめん。僕はここに居座るつもりはないんだ まだまだ、行かなきゃ行けないところがある》

そう言いって丁寧に断った
セレーネは残念そうな顔をして
手を引っ込めた。

《それなら僕は行くよ。 セレーネ 。》

少年は 何をするわけでもなく

セレーネと会話をし 街を去る

セレーネは少年の背中を見送ると
水を飲み 街の中へと消えて行き

少年がレーヴを抜け振り返ると

もはや砂煙りで レーヴは見えなくなっていた。