「待って。どこ行くの?お金払ってないし、みんなに挨拶…」
「さっきフラフラだったでしょ?千花さん具合悪そうだから送っていくって言って抜けてきました。お金は気にしないで下さい」
「えっ?そんなこと言って来たの?」
気にすることもなく、会社の近くの住所を運転手に告げた。
「抜け出すって言ったじゃないですか?」
「えっ?」
強引にも程がある。反論しようと思ったのに、ポケットからスマホを取り出して、誰かに電話をしだした。
「あっ。広重です。千花さんタクシーに乗せましたから。ええ大丈夫です。帰りました。つうか、俺も今から帰ることにします。えっ?……明日釣り行くんで早起きなんですよ」と笑った。
今、私と帰っているじゃん。なんで嘘をつくんだ。
ていうか、降ろしてほしいし。
だけど、ずるい。
そんなこと思ってるのに、ここで声を出したら相手に聞こえるから、「停めて下さい」とも言えないじゃないか。



