「千花さん」
私の背後から声がした。
「広重」
「すみません。あの……実は今日、本当は相談したいことがあったんです。今、大丈夫ですか?」
「相談?」
気まずそうに顔を上げて、金子さんを見た。
「外して貰っていいですか?」
「えっ?」
「遠山さんにちょっと話したいことがあって」
「それって……」
「仕事のことでちょっと」
私を一瞥して、金子さんは行ってしまった。
というか、仕事の話ってなんだ?
何かやらかしたのか。
「あっ。でも帰るとこだったんですよね?」
「うん。でも仕事の話なら訊くよ?」
「外でもいいですか?」と、私を外へと連れ出した。
「タクシー停めますよ?」
「えっ?タクシー?」
困惑する私をよそに、広重は手をあげタクシーを停めた。
「千花さん、どうぞ」と促されるまま、乗り込んでしまう。
よく見ると、私のスプリングコートを持っている。



