「でもあんな噂になっても、会社辞めないなんて遠山さんって強いよね」
「なんかあったっけ?」
「私は遠山さんって顔に似合わないことするんだなって思って、未だに憶えてるけど。遠山さんにとってはそんなことか?」
「ふうん。なんかよくわかんないけど」
嘘だ。
なんの話かなんてわかってる。
だけど、一年以上前の話を、なんでこのタイミングでするかな。
「遠山さん、年下好きでしょ?次は広重くんとか狙ってたりして」
そういうことかと、理解した。
要するに、広重に手を出すなと言いたいのだろう。
「それは金子さんが狙ってるんでしょ?」
「金曜日、広重くんと遠山さんが二人で帰ったの見たって噂聞きましたけど」
でた、噂。
「帰ったけど。それが?一緒に帰るなんて普通じゃない?」
ていうか、ちょっと待って。
この会話って、なんか広重を取り合ってる女達みたいでおかしくないか?
「普通って?」
「そんなの恋愛感情のない高校生だってするでしょ?」
面倒くさいと思った。
噂もだけど、広重の女関係に巻き込まれるのはいちばん勘弁かも。
「広重に聞けばいいよ」
なんか。
気分が悪くなる。
「ていうか、帰るね」
そもそも。
呑み会自体が場違いだったかも。
私には似合わない。
和気あいあいな空気を引き締めてしまうようなことしか言えない。



