「んで。お先に」と田原さんが喫煙所を出て行った。
しまった。
一緒に出て行けば良かった。
広重は顔に似合わずタバコを吸わないのに、私を見て顔をしかめてた。
「ごめん。煙いった?」
「千花さんの煙なら喜んで吸いますけど」
「なら、肺ガンにしてあげようか?」
「その覚悟は出来てます」
笑っていたのに急に真顔になる。
なぜかドキリとした。
キスをしかけてきたときと同じ表情だ。
そのまま私の後頭部に手をかけて引き寄せた。
耳元で、「今日、終わったら俺の家にでも来ませんか?」と囁く。
少し息がかかる耳元がくすぐったくて身体が縮まった。
「一緒に抜けましょうね?」
「抜けるって……」
呑みに誘ってきたのは広重なのに、抜けるってなに?
「じゃああとで」と意味深な笑みを浮かべた。
「あ……あとでって」
言い返すタイミングを与えずに広重は出て行った。
好きとかじゃなくても、こんなことされたら誰だってドキドキするだろって、二本目のタバコに火をつけて思った。



