店を出て、停めていた自転車を広重がひいてその隣をゆっくり歩いた。
「千花さん。今日は寝かせませんから」
「ね……寝ないよ」
「まああれだけ仕事頑張ってれば、眠くなるのも分かりますけど」
「……別に普通だよ」
「いや仕事の鬼って呼ばれてるだけあるなぁと思って見てますよ。かっこいいあだなですよね。頑張ってる証拠。俺には絶対つかなそう」
嫌みには聞こえなくて、広重の言葉は私に馴染んだ。
頑張ってる証拠。
確かに気を張って毎日を過ごしていたから、頑張っていたのかもしれない。
だけど。肩の力を抜いて話せる時間が私には今あるんだ。



