夏樹｢チッ！つまんねぇ女だな。泣き叫べよ！嫌だって言えよ！何なんだよ…お前…。｣
だんだん、腕の力が弱くなっている。
とても、悲しそうな顔…。
｢…私は、確かに周りの人に恵まれている。それは、すごく思う。家族からも愛されてるって。幸せだって思ってるよ。けどね、私は母親しか知らない。父親には私たち4人は捨てられた。父は、浮気相手の人の傍にいることを選んだから。父の顔を知っているの、上の2人だけだから。私たち4人は母親に愛されていても、父親には愛されていなかったの。｣
夏樹くんは驚いていた。愛されているだけの幸せ人間だと思っていた人が、たった1人には愛されなかったのだから。
夏樹｢…なんで、それを俺に言うの？そんなこと言ったって…調子狂う…。｣
夏樹くんは震えていた。そして、腕を離してくれた。
掴まれていた腕には少しだけ彼が掴んだ痕が残っていた。
夏樹｢…帰りなよ。もう、帰んな。このままいたら俺…何するか分かんないからさ。｣
背中越しにそう、言われた。
その背中がすごく悲しそうにみえた。
私は、彼をギュッと抱きしめた。
彼は驚いていた。肩が震えていた。
夏樹｢…お前って、温かいんだな。心も、何もかも。｣
彼は、こちらを向き、額にキスをおとした。
夏樹｢…近くまで送るよ。｣
立ち上がり、手を差しのべてくれた。
私はその手をとった。
今なら、少しだけ彼のことがわかった気がする。
彼は愛されたかっただけなんだって、ただ、不器用なだけ。