「あっ!早く帰らないと。」
自分の腕時計を見た。ちょっとわざとらしかったかな…。
尚「そうだね。ソロソロ帰ろう。」
準備をして教室を出た。
帰り道で、尚は
尚「秋って、本当の恋をしたことがある?」
なぜそんな事を聞いてくるのかはわからなかった。でも、少し尚の顔が悲しそうに見えた。
「…。ないかな…。」
尚「…そっかー。」
私の答えを聞くとまた、何時もの尚に戻っていた。
尚「じゃあ、私こっちだから!また明日ね!」
「うん。じゃあね。」
私は、尚が見えなくなるまで尚の背中をただ、見つめていた。

〔本当の恋をしたことがある?〕

まず私は恋をしたことがないよ。好きって気持ちも分からない。ただ、恋愛なんて何が楽しいとか、嬉しいとかが私には分からなかった。

___in家___
「…ただいま。」
裏のドアから入った。
稔〔みのり〕「おかえり。秋ちゃん。」
みのりさんは、亡くなった母の代わりに私達を引き取ってくれた。稔さんは、旅館を経営している。いわば女将さんといった所。
稔「お兄さん達が、もうじき帰ってくるわ。」
「えっ!?お兄ちゃん達が?」
お兄ちゃん達が帰って来るなんて珍しい…。
稔「久しぶりに、兄妹皆が揃うね。」
「うん。そうだね。」
そういって、私は自分の部屋に向かった。っと、その前に、仏壇の前に座り、手を合わせた。
(お母さん、ただいま。)
今日起きたことを、順番に話していた。
そうしていると、
冬馬「…よく、長い間そうしていられるね。」
「…うん。こうして話していると、お母さんがココにいて聞いてくれてるみたいに思うから。」
お母さんの写真に触れながら言った。
冬馬「…何時も、ココにいるだろ…。」
ボソッと呟いていた。私に聞こえるように言ったのか、聞こえないように言ったのかは分からなかったけど、その言葉は私の耳にしっかりと入ってきた。冬馬の言う通りココにいるんだとは分かるけど、やっぱり…。
春樹「とーま、あきー!ただいま〜!」
ガラガラっと扉を開け、両手を広げて笑顔で立っていた。