折れた翼






ーーー…〜♪♪ …♪



突然鳴り響く着信音に
女は無表情のまま耳にあてた。



「もしもし…」



その途端俯いた顔に影がかかる。




「…友達の家」

「わかってる」

「すぐ帰るから」



定期的な相槌に
淡々と交わされる会話。

時折聞こえる男の声と、
うんざりだと言うような
目の前の女の声。

そして、通話を終えたのか
再び静かになった部屋。



「お父さんか?」


「あ、うん」



ハッとしたように顔を上げた女は
制服に袖を通し荷物を持った。



「もう、遅いし帰るね」



また、表情一つ変えず
女は立ち上がった。


「お、おう!」



初対面なのに変な会話に
俺は何も疑問を持たなかった。

女も、何も言わなかった…



「今日は、ありがとうね」



この日、初めて笑った女の顔に
俺はバッと視線を逸らした。



「ん、気にすんな」



「じゃあね」



女が家をでた後、少しして
また繁華街を歩くのかと
不安になり駅まで送ろうと
家を出るが、女の姿は

どこにもなかった。





雨降る、梅雨明けのことだった。