千代紙の小鳥


プクプク・・・ プクプク・・・


どれだけの時間、彼女は躍り泳ぎ、俺は彼女を見ていただろうか。



「名前は?」


(───…)


俺の脳を動かしたのは、ずっと水の中にいた彼女の上半身が音もなく水面から出て、閉じられていた瞼を開けてその碧い瞳に俺を映した彼女から零れた声。



「ねえ、名前は?」

自分の今の姿など微塵も気にしていない様子の彼女は、横向けていた身体を九十度回転させて、俺のいる入り口の方へと向きを変えた。


「…あ、えっと。」

「名前は?」

「その前に、服着た方が…」

「ねえ、名前は?」

俺はどちらかというと押しの強い方で幼い頃からあまり口で負けるという経験をしたことがないのだが。



「…柳小路 春。」

今俺の前で何も纏わずに長く艶めく髪を水の中で踊らせながらその碧い瞳を真っ直ぐに向けてくる初対面の彼女に、完敗した。


「春。あたたかそうな人。

 私は、水澤 透」


そう言って彼女、水澤透は再び波紋の下、水の中へと入っていった。