始業式は、何が起きるともなく、無事に終わった。式が終わると,教室へ戻り、指定された席で担任が来るのを待つ。担任発表はさっき終わったから、担任が誰かはわかっていた。
森山 巫女(モリヤマミコ)。それが我らが新担任、若く楽しく優しく美しく、ときに厳しい。
大人気の先生だった。だから教室はその先生の話で持ちきりなはず-



そんな私の予想ははずれた。教室は、あるクラスメイトの話で持ちきりだったのだ。


みんなの話によると、イケメン・天才・お金持ち。性格もいいだなんて・・・。
カンペキじゃーん!ってなになに・・・?私の席の隣じゃーん!やっばい。でも、まだ
来てないみたい。どうしたのかな?




そうこうしているうちに、担任の先生がやってきた。とたんに、



「森山センセーイ」


「森山が担任なんて、夢みたーい!」

などと、口々に喜びの声が上がる。男子にも女子にもこの人気。いいなぁ。私も先生みたいに
モテたいよぉ~!そんな先生の第一声は。



「みなさん、こんにちは。」




至って普通の挨拶だけど、それは、森山先生が言うだけで、価値は一変する。その
一言一言が、私には勿体無い程の価値と光を帯びて、放り出される。
それを一言も聞き逃すまいと、みんなが必死に話を聞く。




「みなさん、しっかり話しが聞けていて、大変良いと思います。
                          この状態を保持し続けて下さい。」





先生がそういい終えると同時に、教室の扉が開き、かっこいい男子生徒が入ってきた。
森山先生は少し顔をしかめた。



「初日から遅刻だなんて、ナメていませんか。いい?あなたたちは今日から高校三年生。
 受験を控え、最上級生の身。本当にそれでいいのですか。遅刻するならするで、キチンと
 連絡しなさい。あとで職員室に原稿用紙を取りに来なさい。反省文を書いてもらいます。
 聞きますが、何故遅れたのですか。」




勢いのいい先生の言葉に、遅刻した男子生徒は、“やっちまったな。”という表情。


「すいません。電車で寝過ごしてしまいまして。」



彼の言葉も、森山先生と同じように、人一倍の価値と光を帯びていた。

なんでだろう。胸がすごくドキドキする。彼の一挙一動に。
周りを見ると、周りの女子も、同じ状態。そりゃそうだよね。見た目から何から、
カンペキだもん。


「席に着きなさい。」


先生の指示で、彼は私の隣に座った。早速請えをかけてみようと思い、声をかけた。


「朝から災難でしたね。しかも初日。」


すると彼は、


「全くだよ。あ、俺は佐藤 僚(サトウリョウ)。よろしく。」


彼は遠回しに私の名前を聞いているんだと理解するのに、そう時間はかからなかった。
でも、自分の名前を言うだけなのに、すごく勇気が必要だった。



「あ、私の名前は・・・。佐山、涼花(サヤマスズカ)始めまして。」