喧騒の庭に、夏風が舞った。


コンロの周りで闘いを続けているあいつらを見つめながら伊吹はつぶやいた。
騒がしいあのかたまりとは裏腹に、その声はぽつりと、静か。



「……へえ?」

「って、紅音さんにも、言ったけど。別に諦めたとか、疲れたとか、じゃねえよ?」

「そーかよ」



ひどくゆっくり言葉を紡いで、笑いながら俺を見上げる。

複雑な顔を俺がしていると思っていたらしい伊吹は、俺の口角が上がってるのを見て少し固まってからまた笑った。


夏が似合うな、その顔は。



思い出した。

少しだけ前のこと。




『死ぬの、こわい。でも辛い。早く楽になりたい。早く死にたい。こわい。』




お前がそう言った、そう言って震えていた、あの夜のことを。



あの一度きりだった。少なくとも、俺にその姿を見せたのは。


それでも布をかぶっていて表情は見せなかった。苦痛で歪んだ顔は見えなかった。

病室のベッドの上で、そう繰り返し繰り返し、壊れたかのようにつぶやいただけ。弱く掠れた声で、喉を叩きながら、しぼりだしただけ。

きっと誰も見ていない。あの悲痛に歪んだ声を聞いたのは俺だけ。だって、こいつのことだから。



“生きろ” “がんばれ” “早く帰ってこい”



周りにこれでもかと言うほど求められていたころ。

声援でつなぎとめられて、それを全部受け止めて、声も出せなくなるくらい、疲れるのも忘れてしまうくらい、伊吹が戦っていたころのこと。