「面と向かって死のことを考えてるヤツは、死ぬことがこわいことだなんて思わない。……知らないから、こわいだけなんだよ」



こういうことか先生。

知らないうちにいつの間にか、やっぱり伊吹は大人になってた。月も見られるくらい落ち着いて、ちゃんと考えられるようになってた。

あたしはこえーもんな、まだ。



「う゛おっ!?」

「伊吹」

「なに紅音さん!急に止まってびっくりした!」



道に自分たちしかいないのをいいことに急ブレーキをかけてくるりと振り向いた。ヘルメットをとるあたしにつられて、伊吹も困惑しながら顔を見せる。


……顔、は、そんなに変わらないのに。
髪色は落ち着いたけど、雰囲気とか全然変わらないのにな。

肩ごしに振り返ってじっと見てると首を傾げる伊吹。



「……なあに、紅音さ」

「でっかくなったなあ、お前」



口を開くのと同時に、くしゃりと頭を撫でてやる。とびきり甘やかした声で、この気持ちをこめて。



「がんばったなあ、いっぱい」



な、伊吹。

あたしより頭ひとつでかくても、本気出せばあたしより力が強くても。



「なっななに、紅音さん……っ」



お前はいつまでもかわいい弟分で、そんなやつの成長はな、これから先どれだけ経っても何があっても、嬉しいんだよ。やっぱり。



「おーおー照れてる。めずらし」

「もー、っなに、マジで。もーっ……」

「ヘルメットかぶんなよ撫でられねえだろー」

「いいから。早く出してください、バイクっ」

「チッ」



成長も頑張りも、見てるから。知ってるから。
で、応援してやるから。誰よりも。


だからお前は安心していつまでも自由に正直に、のびのび生きろ。
自分の好きなように。