ゲンコツをお見舞いしてやると、腹を抱えてた伊吹がイダッ!と声をあげながら髪の隙間からこっちを見て、また小さく笑った。



「わはは、やっさしい紅音さん。手加減してくれてるー」

「あん?」



そりゃあ仮にも病人だし。

自分で言うけどあたしの全力ってホラ、受けたら健康なヤツでもあぶねえじゃん。なあ。



「前に紅音さんがイラついてる時にちょっかいかけまくってもらった一撃は効いたなー」

「あー、あったなあ。お前空気読まないんだもん」

「あえて読まないだけで」

「あえずに読めよ素直によ」



隣でハハハと肩を揺らす伊吹に今度はデコピンをくらわす。



錆くさい倉庫で、殴ったし遊んでやったし語り合ったし。

気まぐれ猫のみたいにふらっと離れていったり、かと思えば犬みたいになついてきたり。


人を振り回す天才みたいな、自由なやつだった。散々振り回されてんのに誰もこいつのこと見捨てらんないのは、それはもうこいつの才能だと思ってる。

あたしだってなんつーかこいつのこと、可愛くてしゃーないし。



「くそ。むかつくやつめ」

「待って紅音さん今のデコピンはりふじん」

「おーよしよし」

「何なんすかぁ」



あの頃は髪も真っ赤だったなあ。あたしもド金髪だった。
若かった若かった。

あー、思い出すだけで目にしみる。