ミユキさんに通されて伊吹の部屋に入ったはいいけど、そこに目的の人影はなかった。



昔となんら変わらない整理されてない部屋。ルーズな人間性まるだしの部屋。

そして、ああ、この、あいつのにおい。
煙草とミユキさんお気に入りの柔軟剤が混ざったにおい。


なつかしい。


パタリ。
部屋のドアを閉めると同時にふわりと夕方の風に髪をなでられて、弾かれたように窓の外を見る。

......いた。人影。



「いーぶき」



窓の外に置いてあるサンダルを履いて丘に踏み出した。このサンダルがここにあるってことはあいつ、裸足か。
本能の赴くままだな本当。


1本の大木の根元に横たわってる伊吹の影。
呼びかけたのに返事がねえ。
なんだよ、いつもなら声聞いた瞬間に犬っコロみたいに顔上げんのに。



歩み寄って距離をつめていく。
けど、動かない。

ぴくりとも、動かない。


あれ。嘘だろ。そんな、まさか。




「伊吹!」