ドアを開くと、なつかしい煙草のにおいがした。

よく買いに行かされた、この銘柄。




「この部屋クセェっす、伊吹さん」


「……おぉ」




ベッドに胡座をかいて座ってぽけっと窓の外を眺めていたらしい伊吹さんは、俺の声に弾かれたようにこっちを向いて、少しだけ、驚いた顔をした。


あー、ガリガリ。
殴ったら勝てるんじゃねえの、今のこの人になら。



「伊吹さーん!」

「お久しぶりっす覚えてるっすかー!」



ドアの前で突っ立ってる俺を押し退けて、後ろにいたふたりが伊吹さん目掛けて突進して行った。

「うわっ、お前らもいんのか!」伊吹さんは灰皿に煙草を擦り付けて、そいつらの頭をかきまぜる。



「元気だったかお前ら」



笑うと、いつものように八重歯が見える。



「髪型も髪色もちげえから一瞬誰かと思った」



そう言う伊吹さんの髪は赤がかった茶色。伸びきった前髪を邪魔くさそうにカチューシャで上げていた。意外に根本まで綺麗に染まってる。朔さんだな、たぶん。



「元気だったっすよー!つかこいつ伊吹さんに会わない間に4回髪色変えて1回禿げたんすよ」

「ざけんなてめえ言うなつったろ!」

「うわマジだ。なんか産毛みたいなんある」

「撫でないでくださいよ伊吹さん……」



ダッセェ!と笑うこの人は、いつものようにだらしない猫背で胡座をかく。そしてまた箱から煙草を取り出しながら。