「お、小麦じゃん久々」



ミユキさんに通されて伊吹の部屋を訪れたら先客がいた。

茅野先生と看護師さんふたり。
玄関にくつがあったから分かってたけど。



「そうでもないでしょ。先生、看護師さんこんにちは」

「こんにちは小麦(こむぎ)ちゃん」

「むぎ冷てえ」

「ははは」



伊吹はふざけるときあたしのこと“むぎ”って呼ぶ。

みんなが周りに集まってるベッドに近付いていくと、いつもの伊吹のにおいがした。



「それじゃあ伊吹、これ薬。渡したからな。忘れずに」

「あーい」

「痛いときにはこっち。レスキュー」

「れすきゅー」



もらった薬を見て繰り返す伊吹。これ、あとであたしからもミユキさんに伝えよう。先生からも言ってもらわなきゃ。

なんたって伊吹はどうしようもない記憶力ゼロ男だから。



「先生、いまミユキさんお茶用意してるんだけど、薬の説明あとでミユキさんにもしてくれる?」

「ああ、もちろんもちろん。小麦ちゃん気が利くね」

「だろー」

「……なんでアンタが得意気なのよ」

「自分の女ジマンしたっていいじゃねえかよ」

「“元”でしょふざけんな」



軽口を叩く伊吹を一刀両断してやれば、茅野先生が目を細めて微笑んで看護師さんふたりがクスクス笑う。「ほんと仲良しね」って。

そうですね、驚くほどに。