その夜、伊吹が吐いた。



短く息をして肩を揺らしながら、トイレで。
ほら見ろ。消化できてなかったじゃねえか。


やっぱまだ帰らなくてよかった。背中をさすってやりながらそう思う。



「……うっへぇ、すげえ吐いた」

「出きったかよ」

「ウンコみたいに言うんじゃねえよ」

「誰がウンコだ」

「言ってねえ」



分かってた。きっと本人がいちばん。

そう望んだときも食ってる最中も、こうなることは分かってたんだろう。



「母ちゃんの料理うまかったなー」



それでも。吐いてでも食べたいと。


願ったこいつが、このバカが、便座の前に座り込みながらそう満足そうにぬかすので、まあ、これでいいとしよう。