「菜摘!」
哲二さんが声を上げる。
隣りでシュウが息を飲んだのがわかった。
叩かれた頬に手を当てる。
ジンジンと熱を帯びる頬。
何が起こったのか理解するのに時間が掛かった。
恐る恐る目をやると、涙をいっぱい溜めた菜摘さんが肩を震わせながら、私の頬を叩いた右の掌を左手でギュッと握っていた。
「何を笑ってるの‼︎何を平気な顔してるのよ‼︎」
「な、つみ…さん?」
初めて見る菜摘さんの涙と切なく声を荒げた様子に目を見張る。
「辛い時は笑わなくていいの。平気な素振りなんてしなくていい。辛いなら、悲しいなら声を上げて泣いていいのよ」
菜摘さんのふっくらした頬に、涙が幾度も流れる。
菜摘さんが微笑むと出来る目元の笑い皺。
私はその表情を見ると、心がほっこりして凄く好きなんだけど。
今、その優しい笑顔が悲痛な表情に変わっている。
私を想って。私のことを心配して。
「あなたは透明人間じゃない。ちゃんとここにいるわ。あなたはいらない子なんかじゃない。あなたは大事な大事な私の娘よ‼︎たった一人の、かけがえのない娘よ‼︎」
“かけがえのない娘”
その言葉に、胸が…全身が震えた。
「あなたは楽しくなかった?嬉しくなかった?この一ヶ月、ここで生活して心が踊らなかった?」
菜摘さんが私の隣りに移動すると、私の手を取って目をジッと見つめてくる。
少し色素の薄い瞳。
私をちゃんと見てくれる、優しい瞳だ。
「私は楽しかったわ。皆で食卓を囲んで、賑やかで、初めて愛する子供達とご飯を食べてるかのように思えた。あなたといろんなとこに買い物に行って、並んでキッチンに立って、他愛もない話をして。嬉しかった。心が躍ったのよ……」
「菜摘…さん……わたしっ、私……」
それ以上、言葉にならなかった。
私より小さな菜摘さんの体。その首に腕を回して。肩に顔を埋めて思いっきり声を上げて泣いた。

