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カタン、と扉が閉まる。
シーンと静まり返った部屋。


時刻は早朝四時を回ろうとしている。
この時間、外はまだ薄暗い。


予想通り、母親はあれから家には帰ってないようだ。

玄関に母親のハイヒールが無いことにホッと胸を撫で下ろした。



「上がって」


「お母さんは?」


「いない。たまにしか帰って来ないから」



母親はホステスとして働いてるため、この時間はだいたい店にいるか付き合ってる男の家にいるかだ。

ここに帰って来るのは、数日分の着替えを取り替える時だけ。



「これ使って」



この家で一番綺麗なバスタオルをシュウに渡すと、シュウは「サンキュ」と言って髪を拭き始めた。



「あ、これサチの匂い」


「ふふ、何それ」


「俺、好きなんだよね、このフローラルな香り。この匂い嗅ぐとサチを思い出す」


「やめてよ、恥ずかしい」



シュウの軽い冗談に笑いながら、心がさっきより落ち着いてることに気付く。

これもまたシュウの優しさなんだと思うと、胸がトクンと疼いた。



「ごめんね。うち、暖房無いの。だからこの毛布に包まってて。今お風呂沸かすから」



シュウを部屋に案内し薄っぺらい毛布を渡すと、私はお風呂を沸かして温かい飲み物を用意した。

二人分のマグカップを持って部屋に戻ると、シュウが私の教科書をパラパラと捲っているのが目に入り、思わず声を上げた。