「負けちゃダメだ。逃げちゃダメだ。これからは俺が側にいるから」



胸に響く。


どうして、シュウは私の気持ちを理解してくれるんだろう。

どうして、欲しい言葉をくれるんだろう。



「なんでそんな優しいの?出会ったばっかの私なんかに」


「放っておけねぇんだよ。昔の俺を見てるみたいで」


「昔のシュウを?」


「不安定で。崖の淵を歩いてて、ちょっとした風でもフラついて落ちてしまいそうで。目が離せない」



崖の淵、か。
確かにそうかもしれない。

目の前に広がるのは底が見えないほど深い大きな穴。落ちるとまず助からない。

本当は落ちたくないくせに、崖っ淵を歩いては穴を覗く。落ちたら楽になるのかな、なんて思いながら。



「なぁ、サチ。サチって幸せのサチだろ?」



シュウは立ち止まると、私の手をギュッと握ってさっきよりも明るい声で言った。

私もつられて立ち止まる。シュウに握られた手が温かい。



「違うよ。私のサチは幸せのサチじゃない」


「いいんだよ。サチホのサチは幸せのサチで。俺がいいって言ってんだから」


「ぷ。何それ。強引じゃない?」



余りにも強引で勝手な発言に思わず吹き出して笑うと、「思い込みも大切だろ?」とシュウも得意げにニヒヒと白い歯を見せた。



「サチなら絶対幸せになれる‼︎俺が保証する」


「シュウ……」


「だから一緒に頑張ろう。な?サチ」



涙が出た。
悲しくてじゃない。辛くてでも、苦しくてでもない。

嬉しくて、嬉しくて嬉しくて。
涙が止めどなく溢れてくる。

こんなに温かい涙を流したのはいつ振りだろう。



私、変われるかな。
背負ったものに負けないで、前を向いて歩いて行けるかな。


怖い。怖いけど、自分で足を踏み出さないと何も変わらない。

シュウの話を聞いてそう思った。


包み込むような優しい瞳を向けるシュウを見つめ返す。

曇りのない、逞しい目を持つこの人を、信じてみよう。


そう思えた夜だった。