鍵が開いた窓から教室に入り、そのまま屋上までの階段を駆け上がる。


「コツがある」と、シュウが屋上の扉の取っ手をガチャガチャと回すと、簡単にカチリと鍵が開いた。


ゆっくりと開かれる扉。
神々しく光る月と、視界いっぱいの夜空に、思わず「うわぁ」と声が漏れた。



「ここ、俺の特等席」



シュウは屋上の真ん中に腰を下ろすと、空を見上げた。



「セキュリティー全然なってねぇよな。何処もかしこも鍵壊れてて簡単に忍び込めちゃうんだぜ」


「シュウはここの生徒なの?」



今日、トイレで聞いた話を思い出す。


“タチバナシュウタ?一年の頃から休みがちの”

“三年に上がるのはもう無理って話だよ”

“常に笑ってるから重い病気患ってるように見えなかったんだよね”


あの話はやっぱりシュウの事だったって事……?



「そ。一応、今はサチの先輩。でも来年からは同級生だ」



そう言って、笑うシュウ。
無理してるわけでもなく、いつもの明るい笑顔に胸が騒ぐ。



「俺、広場でサチに会う前からサチのこと知ってた」



そういえばシュウに初めて時計広場で会った時、私の名前を大きな声で呼ばれたんだっけ。


あの時は何で私のこと知ってんだ?って思ったけど、同じ学校に通ってるんだったら名前ぐらい知られていても頷ける。