「ああ、タチバナシュウタ?一年の頃から休みがちの」
「そうそう。一年の時は追試とかでなんとか二年に進級出来たみたいだけど、三年に上がるのはもう無理って話だよ」
「あー、出席日数が足んないとか?確か入退院の繰り返しなんだよね。どんな人だったっけ?」
「私もよくわかんないけど、なんかずっと笑ってるイメージしかない。常に笑ってるから重い病気患ってるように見えなかったんだよね」
「確かに」
声の主達は、「あ、そのリップ可愛い色」と違う話題に移りながらトイレを出て行った。
私に気付かなかったことに安堵しつつ、
足音が聞こえなくなるまでトイレの個室で外の様子を耳を澄ませて窺う。
もう校庭からの音以外、何も聞こえない。
緊張してた分、一気に力が抜けて軽くタンクに背を預けた。
ふと、さっき聞いた会話を思い出す。
タチバナ シュウタ。
確か、あの失礼な金髪男も“タチバナ”とか“シュウ”って呼ばれてたような気がする……
でも、あいつは“シュウタ”じゃなくて“シュウ”だし。タチバナって苗字もシュウっていう名前もそこまで珍しいわけじゃない。
それに、金髪男は何処からどう見ても重い病気を患ってるようには見えない。
痩せてはいるけど、しょっちゅう広場に入り浸るぐらい元気そうだし。別人に決まってる。
私はそこまで深く考えず、トイレを抜け出した。

