「お前…まさか」


「そうだよ。逃げだした。でも何度も失敗した」



思い出す。
小四の冬、何日も食べ物を口にしていなくて、公園の水道水でお腹を満たしていた時、丁度近くを通った警官に保護された。


『お母さんが帰って来なくて、もう何日もご飯食べてないの』

そう警官に訴えかけた。


だけど、連絡したらすぐに迎えに来たお母さんのキチンとした態度と装いにころっと騙されて。

私の話を信じずに、警官はニコッと笑って『もう家出なんてしちゃ駄目だよ』と頭をポンポンと撫でた。


その後は、地獄だった。


家に帰った途端、頬を何度も平手打ちされ、すぐに服を脱がされると髪を引っ張りながらベランダに出された。

二月の雪が降りそうなぐらい冷え切った真夜中。

私はベランダの隅で小さくなって必死に肌を擦った。だけど、どんどん冷えていく身体。ガチガチと身体は震え、鼻水と涙を垂れ流し、トイレにも行けずに小便を漏らし。家に入れたのは朝日が昇ってからだった。



「何度も何度も何度も何度も逃げた。交番、警察署、市役所、公共施設……でも、全部失敗。笑っちゃうでしょ?身体に痣がないし、母親は連絡すると絶対に迎えに来たし。それだけで、私じゃなくて母親のことを信じた」



終いには、警察や役所の人間は私が家出の常習犯だと…虐待を受けてると嘘を付く厄介な子供だと言って門前払いされるようになった。