その時。ぼやっと見つめていた襖がサッと開いて、私は咄嗟に上半身を起こした。驚きの余り、息を飲む。
「シュウっ……⁉︎」
だけど、開いた襖から顔を覗かせたのはシュウではなく菜摘さんだった。
「サッちゃん、荷造りは終わった?」
……そう、だよね。
シュウのわけがない。シュウは今、病院で寝ているんだから。
シュウのはずがないんだ……
「はい…終わりました」
「何も無くなっちゃったわね……」
菜摘さんは部屋に入ってくるなり、ぐるっと部屋を見渡して切なげに言った。
「この部屋、こんなに広かったかしら……一緒に暮らした期間は短いけど、シュウちゃんがいるのが当たり前になってたから……」
スッと鼻を啜りながら、菜摘さんは指で目元を拭う。そんな姿に、私まで涙がじわりと滲んだ。
この部屋だけじゃない。
この家全体が、シュウがいないとこんなにも広くて静かだったんだと思った。
シュウの存在は、私達家族にとってそれほど大きい。
「そろそろ行きましょう。着く頃にはお昼を過ぎてしまうわ」
私達は哲二さんの運転で、シュウが移送された病院へ向かった。