シュウは何も言わない。

私が考え事をしていることをわかってくれてるんだろう。
敢えて何も話さない、聞かないシュウの優しさを有り難いと思う。

今はうまく自分の気持ちを言葉で表せないから。


一度も口を開くことのないまま、今暮らす街の最寄り駅に着いた。プシューと静かにドアが開くと、私とシュウは一度目を見合って電車を降りる。

私達以外、降りた人はいない。

閑散としたホームを微かな海風に髪を揺らしながら歩く。海の香りが日常に帰って来たんだと思わせてくれた。

お父さんと病院で再会してからのこの数日が夢のようにさえ思えてくる。


改札を抜けて少し海沿いの道を歩く。



「少し寄り道していこうか」



私の少し前を歩いていたシュウが立ち止まると目を細めて言った。


コクンと小さく頷く。

シュウはそれを見ると、ふっと笑って手を差し出した。

その手をそっと握る。
骨張ってゴツゴツの大きな手。
暖かくて、私の手を軽々と包み込んでくれる。

手のひらから一気に優しさが伝わってきて、胸を熱くさせた。



「おー、シュウ!サッちゃん!元気か?」



魚屋のおじちゃんが自転車ですれ違いざまに手を挙げる。



「元気だよ、おじちゃんは?」



シュウがそれに答えて手を挙げると、おじちゃんは、「ガハハ」と豪快に笑った。



「この通りさ。まだまだ若い奴らにゃ負けねーよ」



そう言って、颯爽と走り去って行く。