「サチに時間をくれませんか?」



凛とした声に、視線を上げる。
シュウはスッと背筋を伸ばしてお父さんを見据えていた。



「サチには気持ちを整理する時間が必要です。今までお父さんのこと、誤解していた面もあったと思います。いや、ほとんど全てが誤解だったでしょう。頭の中は混乱して今どうしたらいいかわからないはずです。現実を受け入れるのに、まずは一人になって冷静になることが大事だと思うんです。もしかしたら凄く時間が掛かるかもしれない。だけど、待ってあげてくれませんか?」



お父さんはハッと、何かに気付いたように息を吐いた。



「シュウ……」



掠れた声で思わずその名を呼んだ。

なんでシュウは私の気持ちをこんなにもわかってくれるんだろう。


シュウは私を見ると、大丈夫だ、と言ってくれてるかのように優しく微笑んだ。

その瞬間、ざわざわとしていた胸がスーッと軽くなっていく感覚がして、次第に心臓の鼓動も落ち着いていく。



「……そうだな。サチ、すまない。父さん、少し焦っていたようだ。サチの気持ちを考えずに一人で突っ走ってしまった」


「ううん……」


「今日はここまでにしよう。だけど、これだけは言わせて欲しい。父さんはサチを愛してる。本当に親子二人でやり直したい、暮らしていきたいって思ってるんだ。考えてみてくれないか?」



お父さんが目を細める。
不安そうに、眉毛を下げて。



「うん。よく考えてみる」



そうやって素直に頷けたのは、シュウが心を軽くしてくれたからだ。



「ありがとう」



お父さんは胸を撫で下ろし、安堵の表情を浮かべた。



「立花君もありがとう。本当に君には感謝してる。これからもサチホのこと宜しく頼みます」



そう言うと、お父さんは深々と頭を下げた。


その後、私から連絡するまではお父さんからは連絡して来ないという条件でお父さんと連絡先を交換した。

ただ一つ、哲二さんと菜摘さんには一度挨拶したいから電話させてくれとお願いされて、それだけは渋々承諾した。