キミノカケラ〜群青色の空と君と〜



そんなある日、お父さんは出て行った。

あの人は、お父さんは他に女を作ったって言ってたけど、それが本当なのか私にはわからない。



「なんでだろうな。何処で歯車がズレたのか……父さんは家族のために必死に頑張ってたつもりだった。でも、それが母さんにとっては家族を放ったらかして仕事仕事ってふざけんなって思ったんだろう。母さんはサチが生まれてすぐ育児ノイローゼになったんだ」


「育児ノイローゼ……?」



それって、産後になる鬱病のことだよね……?

几帳面で何でも完璧にこなさないと気が済まないような人がなりやすいって聞いた事があるけど。

あのズボラなお母さんが鬱病になるなんて想像も出来ない。



「母さんと父さんの親は互いに亡くなってて頼れる人もいなかった。特に母さんの母親は母さんが幼稚園の時に亡くなってる。だから母親の愛情を受けてこなかった母さんは、初めての育児でどうサチに愛情を注いだらいいのかわからなかったんだと思う。狭いアパートの部屋で一日中泣き喚く赤ん坊に母さんは追い込まれていった。そんな時、父さんが支えて協力してやれればよかったんだろうけど、父さんも研修医を終えたばかりで仕事に集中し過ぎて、それが疎かになってしまったんだ。気付いたら母さんは別人のようだった」



お父さんは膝の上で握った拳を震わせて、当時のことを酷く悔やんでるように見えた。



「昔は怒ることもしない穏やかな女性だったけど頻繁に怒り発狂するようになった。赤ん坊のサチを叩いたり、泣いてるのに放置したり、そんなことは日常茶飯事だった。それはサチが大きくなっても続いて、ある日、サチを布団叩きで叩いて怪我を負わせたんだ」



思い出した。
幼稚園年長から小学校二年ぐらいまで、何かあれば布団叩きで叩かれてた。

でもそれは、私が悪いことをしていたからだって小さいなりに我慢して我慢して。

ミミズ腫れになった背中を、鏡で見ては泣いていたっけ。