「今勤めてる病院の医院長とは昔からの知り合いでね。入退院を繰り返す父さんを雇ってくれた。本当にお世話になりっぱなしで、元気になった今、恩返しのつもりで働いてる。治療でなくなった貯金をもう一度貯めて、ある程度貯まったらサチを迎えに行こうって……そう心に決めて毎日がむしゃらに働いたんだ。だけど一ヶ月半前、やっと迎えに行けるようになって家に行ったら……もぬけの殻だった」


「もぬけの殻…?」



どういうこと?
もぬけの殻って、あの人は何処に行ったの?


お父さんは言い辛そうに顔を顰めながら口を開いた。



「……もう別の人が住んでたよ」


「え、待って……あの人は?」


「わからない。電話してももう繋がらなかった」



嘘でしょ?

一ヶ月半前って、私がシュウと家を出てまだ二ヶ月ぐらいしか経ってないのに……

あの人が、家に……いない?



「ふっ。ふふふ……ふ、ははははっ‼︎」


「サチ?」



突然、肩を揺らして笑い出した私の姿に、お父さんは戸惑いの声を漏らす。


本当にあの人にとって、私は邪魔な存在だったんだ。

私がいなくなったってわかった途端、すぐに男の所に転がり込んだってわけか。

私がいなくなったことで、少しでも罪悪感が芽生えて来てるかと思えば、全くそんなことはない。やっと邪魔者が消えて清々してるんだ。


おかしい……
自分が余りにも惨めで、滑稽で。

おかしくて笑いが止まらない。
笑い過ぎて涙が出るぐらいだ。