私は下り坂は下りずに、反対に坂を登る。

坂を登った家の裏には空き地が広がっていて、そこに置かれた大きな岩に座りながら空を見上げるシュウを見つけた。

名前を呼ぶと、シュウはゆっくりと私に目を向けて微笑んだ。



「もうすぐご飯だよ」


「ああ、今行く」


「またここに来てたんだね」



ここはシュウのお気に入りの場所だ。
色んな空の表情と広大な海、平和な街並みが見れる最高の特等席。


朝は雲一つない透き通った青色の空。
夕方は燃える茜空。
夕方と夜の間にはシュウが好きな群青色の空。
そして、夜は満天の星空が広がる。

他にも天気が悪い時の灰色の空や、ウロコ雲が一面に広がる水色の空など、毎日違う顔をする空をシュウは時間があれば毎日のように見に来ていた。



「静かだな」


「うん」



此処は私達が暮らしていた街と違って人が少ないから、良い意味で静かで平和な街だ。


私達がいた街は人が多い分、活気は溢れているけど色んな面で汚い。

道端には煙草の吸殻、缶や誰かが吐き捨てたガムが落ちているし。
車の排気ガスや下水の臭いがやけに鼻につく。

それだけではなく、心が汚い人も多い。
皆、心にゆとりがないんだ。



私達は何も話さず、空を見つめる。

言葉なんていらない。
シュウが隣にいるだけで、心が満たされる。