「シュウのお陰だね」


「はい。でも、それだけじゃありません。哲二さんと菜摘さん、二人が私達を支えてくれるから私とシュウは笑えるんです。こんなこと言ったらおこがましいかもしれないけど、二人は私のお父さんとお母さんなんです」



ずっと憧れてた。
こうやってお母さんとキッチンに並んで色んな話をしながら料理を作ること。

私がつまみ食いをしたら、またつまみ食いなんかして太るわよ!ってお母さんが笑う。
そこにお父さんが来て、俺にも味見させてと後ろから手を伸ばしてくる。
その手をお母さんがぺしっと叩いて、もう少しで出来るから座って待ってなさいって怒るんだ。

そんな何処にでもあるような当たり前な日常を、私はずっと憧れてきた。



「全然おこがましくなんかないわ。言ったでしょう?サッちゃんはもう私の大事な大事な娘だって」



嬉しくて、擽ったくて、つい顔が綻ぶ。

幸せだなって思った。
心から、この家族が大好きだって思った。



「家族っていいですね。私、こんなに家族が温かいってこと知らなかったから…」


「これから知っていけばいいのよ。今まで辛い思いをしてきた分、絶対幸せになれるんだから」



私にも訪れるのかな。

そんなささやかだけど当たり前な幸せの日常が。
ずっとずっと続く幸せな日々が。



「さ、もうそろそろご飯出来るから、シュウを呼んできてくれる?多分、あそこにいるから」



私は菜摘さんに後は任せて、シュウを呼びに家を出た。


門を出て、緩い下り坂の下に広がる海を見ながら、綺麗で澄んだ空気を目一杯吸い込んだ。

波は穏やかなようだ。
空には月が浮かび、群青色の空と海を明るく照らす。