引き戸を開けて旅館に入る。父は入ってすぐ左手の部屋に入り、奥で浴衣に着替え始めた。
窓から差し込む夕日が部屋を照らしている。その橙色の光が照らす場所全てが、妖しく歪んで見えた。
――なんなんだ、この旅館は……。
唯一の肉親である父は、全く気にしていない様子。この旅館にとりこまれてしまったようだ。いや、初めから操られているようだったじゃないか。
――頼りになるのは自分だけなんだ。
そう思うと、私は拳を握り締めた。