[流也へ
    
       今までごめんね。急にこんな形で手紙を書いてごめんね。

記憶障害のこと、なかなか言えなくて、ごめんね。それと・・・・・・流也が今、この手紙を読んでいるってことは、私は流也の傍には、もういないんだね・・・・・・。

 私は、高校に入学した時から、流也のことが好きだった。
誰かを好きになるなんて感情、生まれて初めてだった・・・・・・。

 流也は高校入学当初から頭が良くて勉強できるって聞いたから、私は流也と同じクラスになりたくて、どんなに記憶力が悪くても、一生懸命勉強頑張ったよ。

 一生懸命勉強頑張って、高三で同じクラスになった時は、すごく嬉しかったよ。
告白できるチャンスかもと思って、思い切って流也に告白したよ。

 嫌われたかもって思って告白したけど、OKしてくれた時は、とっても嬉しかった。
流也との恋が、私の最初で最後の恋だった。

 でもね、流也と幸せな時間を過ごすにつれて、記憶がどんどん薄れていくの・・・・・・。流也のことだけじゃなくて、家族や友達のことも、少しずつ忘れるの・・・・・・。

 記憶が薄れないように、流也と初めて結ばれたときは・・・・・・恥ずかしくて、ちょっと痛かったけど・・・・・・あの時の痛みが、「幸せ」と「現実」を私に教えてくれたんだ・・・・・・。
 
 私・・・・・・流也の記憶と、死んだお兄さんの記憶だけははっきりと覚えているの・・・・・・。

 あ、死んだお兄さんっていうのはね、私には二つ年上のお兄ちゃんがいたの!
お兄ちゃんの名前は、一之瀬 宏太(いちのせ こうた)。

 私はお兄ちゃんのことをよく、こーたお兄ちゃんって呼んでいたの。

 私とこーたお兄ちゃんは、近所の人が羨むくらい、とっても仲良しな兄妹だったの。

 そんなこーたお兄ちゃんは、私が三歳の時に、○○山に連れて行ってくれたの。
○○山は緑豊かで、森の空気が気持ちいいからって、二人でよく遊びに行っていたけど・・・・・・。

 ある日、私とこーたお兄ちゃんは、知らないおじさんに腕を掴まれて、どこかに連れて行かれそうになったの・・・・・・。
こーたお兄ちゃんは、私と知らないおじさんの腕を引きはがして、私に「逃げろ!!!」って言って、叫んだの。

 私は怖くなって、そのまま逃げて家に帰ったけど・・・・・・こーたお兄ちゃんは知らないおじさんに誘拐されて、○○山で殺されて、亡くなったの・・・・・・。