俺様社長の飼い猫

紫音がいなくなったリビングは、ガランとしていて、寂しさを覚えた。

私は、ソファーの隅に丸まって座り、さっき手渡された名刺に視線を落とす。


『東郷 エンタープライズ代表取締役 社長 東郷 紫音』


それが、紫音の肩書だった。

私は思わず、口に手を当てた。

驚かずにはいられない。

だって、私はこの東郷エンタープライズの庶務課で、働いているのだから。


「・・・・こんな事って」

紫音は、まさか、自分の会社の社員を、家に住まわせていると思いもしないだろう。

彼に迷惑をかけてはいけない。

そう思い立ち、揃えてくれた服に身を包み、化粧品も揃えてくれていたが、一切化粧せず、私は会社に行こうとした。

しかし、ここは一体どこなのか?

よくよく考えてみれば、ここがどこなのかもわからない。


私は玄関に力なく座り込み、考え込む。

「・・・ぁ、会社に電話しなきゃ」

ここがどこなのか、知る必要があった。

仕方なく、会社に体調不良と言う辺り障りない理由を告げ、今日一日だけ、会社を休んだ。

…もう一度、玄関に向かおうとしたところで、突然インターホンが鳴った。