「もうっ!海!
結局は私をからかっていたんだ!」
私は海にそう言いながらも
内心はどこかで安心していた。
妖精だの 儀式だの
訳の分からない事ばかりで不安を感じていたから。
いや…
本当はその儀式を切っ掛けに
林くんに対してアプローチをして行く事になってしまうのが怖かったからだと思う。

「いやいや!違うんだって!
この妖精の話は私の先輩が実際に体験した話で、私にはその先輩が嘘をついている様には見えなかったんだって!
周りの人達は全く信じてなかったみたいだけど…
先輩は何人かの人にこの話をしたんだけど
誰も信じてくれなくて、誰も信じていないままに妖精の噂だけが広がっていったんだよ。
私も先輩が人から聞いた話って言うのなら信じないけど、実際に体験した話だって言っていたから信じたんだよ。」

「海…」





少しの間沈黙が続いた。
少しと言ってもほんの5秒程だったと思う。
その短い時間の間に私は色々な事を考えて…

「分かったわ。やりましょう。」
この時の私は
私の事ではなく
海の先輩の事でもなく
好きな人の事でもなく

海の事を考えてそう言ったんだと思う。


「ソラ~♪」
すごく嬉しそうに海は私の名前を呼んだ。


「周りに人いないよね?」
私が海辺にたたずみ言うと
海は真剣な表情で言葉なくただ頷いた



「じゃあ…行くわよ…」
胸がスゴくドキドキしている

顔が真っ赤なのも 耳までもが赤いのも

口の中がカラカラで 喉に何かが詰まっていて

なかなか声が出ない

告白する時って

こんな感じなのかな…

苦しくて

苦しくて

苦しくて




だけど少し心地の良い感じ。









私はすぅーっと 大きく息を吸い込み

気持ちを 心を込めて




月に向かって
大好きな人の名前を呼んだ。
























「あはははははは!
なんや自分若いな~!
夜の海でそんな恥ずかしい事叫ぶなんて!
いや~!ええもん見してもろたわ♪」






ぷちっ と
私の中で何かが切れる音がした。


「うみ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」

私はさっき叫んだのよりも大きな声で
私を馬鹿にして笑っている海に言った。




海に言った…




海に言った筈だった。




海に言った筈だったのに
私を笑って馬鹿にしている声のした方には海はいない。


そこにいたのは
漫画やアニメに出てくる様な
手の上に乗れる程の小さな体に羽の生えた
紛れもない妖精さんだったのです。