「で、ソラは誰が好きなの?」

「っっっ!?」

二学期が始まって数日が経った高校1年の秋。
秋と言ってもまだ9月で残暑が厳しく
だけれど夕暮れには涼しくなる様な気候。

夕暮れの誰もいない教室で
私は中学時代からの友人
青空 海(あおぞら うみ)と
他愛のない会話をしていた筈なのに…
急に海がそんな事を言い出したのである。

言葉に詰まっていた私にもう一度海が言う。

「で、ソラは誰が好きなの?」
今度は一度目の無表情とは違い
からかう様にニヤニヤしながら。

そしてさらにもう一度
「で、星野 空さんは誰が好きなのですか?」
今度はニヤニヤどころかもはや笑いを堪えながら。

「もうっ!からかわないでよね!
海が私をフルネームで呼ぶ時は私をからかっている時だって知っているんだから!」

「あはははっ!バレた?ごめんごめん。」

「笑いながら謝られても…
謝る気ないでしょ!もうっ!」

「いやいや~。本当ごめん。
でもソラのきょとんとした顔が面白くって…」

海は目に涙を浮かべながら笑っている。
そんなに私の表情変だったのかな…?
そんな心配をしていると海が

「でもさ~。ソラ好きな人いるよね?」
と今度はからかう様子もなく言う。

「な、なんの事かね。
私は部活に青春を捧げる女子高生。
恋愛などにうつつをぬかしている暇など…」

「いやいや。あんた帰宅部じゃん!」

私が話終える前に被せ気味のツッコミ。
さすがは海だ。

「ソラさ~。私がソラをからかう時の癖をソラが知っている様に、私だってソラの事を色々知っているんだからね!最近のソラを見てると分かるよ♪」

伊達に「いつも仲良し海空コンビ!」
と呼ばれていた訳ではないみたい。
まぁ中学時代に周りに勝手にそう呼ばれていただけだけど。

「はぁ~、誤魔化そうとしても海には通用しないよね…
そうだよ。好きな人はいるよ。」

「ハヤシ君でしょ?」

私はつい「ブっ!」と
口に含んでいたジュースを吹き出してしまった。
顔を真っ赤っかにさせながら。

「な、なんの事かね。
私は全ての人々を愛する女神の様な…」

「女神が口に含んだジュースを人にかけるか~!」
とジュースまみれになった海が言う。

「ウフフフフ♪」
私はそんな海をみ見てついつい笑ってしまった。

「もう~。何笑ってるの!
ジュースかけたお詫びにちゃんと教えなさいよ~。」
ぷうっと頬を膨らませ、手をこちらに差し出しながら海が言う。

「分かった分かった。はいハンカチ。」

差し出された手にハンカチを渡し
海が顔を拭いている時に。
海の顔が見えない時に。
海からも私が見えない時に。私は言った。

「うん。好きだよ。林くんの事が。」