動き出す車




咄嗟に手を握り合った。



離れたくない


行かないでほしい


鈴のそばにいたい



必死で握りしめた手を

ゆっくりと動き出す車のスピードにあわせて


小走りでついていく。



会えなくなるなんて嫌だ。


明日も明後日も


ずっと


毎日


鈴と一緒にいたい




「鈴、約束だ。

約束だからなっ…‼」


「うん、うん、絶対に待ってるから…」


「鈴…


鈴っ…」


堪えきれない思いが声を震わせる。

すると

鈴はもう片方の手を必死にのばして


清人の頬に触れようとした瞬間



加速した車のスピードで

繋いでいた手が

一気に離れると



「うわっ」


石につまづいで勢いよく転んでしまった。


おでこも

鼻も

両肘も両膝も擦りむいて痛かったけど

思い切り立ち上がった先にはもう

鈴の姿は確認できないほど小さくなってしまっていた…。




「鈴っ‼待ってくれ…っ


行かないでっ…


鈴…」




その言葉が届くわけないと知っていても


言わないわけにはいかなかった。


言わなければ


言葉にしなければ

このどうしようもないくらい張り裂けそうな胸の痛みが


本当にこの胸を

引き裂いてしまいそうに痛かったから…。